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「マルに迎いにいってくれと頼まれた。なんだったんだ、あの男は」
「しつこくてね、はっきりさせただけだよ。マルは万が一を心配して裕をエスコートに選んだようだけど」
「マルの注文は「姐さんのお迎え」レベル。権田に姐さんはいないっていうのに。マルは無理を言って楽しんだに違いない」
「それで、『お送りいたします』なんて?よく噴きださなかったね」
「お互い様だろう、これからどうする?帰るのか?」
「新宿でおろしてくれるかな、マルに報告しなくちゃね、心配かけたし」
「わかった」
滑るように走る高級外車。もちろん裕の持ち物ではないが、裕のポジションだから使う権限を与えられているのだろう――運転手付きで。
「E1ビルの前で一度止めろ、そのあとで若のところに向かう」
「わかりました」
ミラーごしにわたしに向けられる視線は雑味があり、ざらついている。この目つきをする人間は質が悪い。
「見ない顔だね」
「ああ、こいつは吉川だ」
「美木君は?」
「あいつは料理の腕がかわれて、役割が変わった」
「そう」
吉川という男は、わたしに何度も視線をよこした。わたしは知らない振りをし、それに気が付いているだろう裕も何も言わなかった。
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