<18>

3/7
前へ
/84ページ
次へ
【 ♪♪♪ 】  わたしに電話をくれる人間は二人しかいない――裕と斉宮。  佐藤に引きずり込まれた毎日にヤケクソになって自分の性癖を親に打ち明けた。佐藤にされている「sin」での自分の役割を打ち明けて救い出してほしいという望みをしのばせて。  わたしのカミングアウトは混乱と恐怖、そして冷めたい溝を生んで幕を閉じた。もう親子としての会話を楽しんだり、仲良くテーブルを囲むことはないだろう。 「何故、碧仁なんだ!他の誰でもいいのに、どうしてお前なんだ!」  狼狽して怒鳴る父親にわたしは言ってしまった。一度口にしてしまったことは取り消せないというのに。 「じゃあ、何故わたしをゲイに生んだ?普通に生まれたかったのに、どうして!ゲイにしてくれと頼んだとでも?普通がほしかった!どれだけ、どれだけ、わたしが!!」  ショックで表情をなくした両親を前に、わたしはそのまま家を去った。二度と敷居をまたぐことはないだろうという確信は、深い悲しみによって裏打ちされた。  そして少しだけの安堵。あのビルの地下でわたしがしていることを両親が知ることは無いだろうと言う安堵。  鳴り続ける電話のディスプレイをノロノロと見る。  <斉宮>文字と黒いシルエットの人型が映りこんだ表面。  でなくてはいけない。「大水蒼」の仕事がわたしを待っているのだろうから。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

239人が本棚に入れています
本棚に追加