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 呼び出されたのは新宿のビル。2丁目からは少し離れている。今度は何をさせる気なのだろう。握っていた携帯が鳴った。 『つきましたか?』 「はい」 『じゃあ3階まできてください』  言われるままにエレベーターで3階に向かう。スナックやバー、小料理屋……この雑居ビルのどこかで相談事だろうか。  エレベーターを降りると斉宮が立っていた。黙って後ろをついていく。すっかり慣れた。余計なことは聞かない、まずは斉宮の説明を聞き、その後に質問をする。初対面の時から同じ約束事。 〔jenet〕  ジュネ?店の看板に書かれた文字……またフランス語。  ドアを開けて中に入ると、よくある普通のカジュアルなBARだった。カウンターが8席、2人掛けのテーブル2つ、仕切りのある奥にもう一つ席があるようだ。さてと、ここでわたしは何をすればいい?  テーブルにつくよう促されたのでイスに座った。斉宮はいつものように煙草をとりだし、火をつけてゆっくり煙を吸い込む。 「さてと、端的に申しますと……蒼の賞味期限が切れました」  これは最後通牒だろうか。違う人間に仕えるのか?今の生活がまっとうでないことぐらいは承知しているが、それなりに折り合いをつけてきた。  知らない男と寝ることも。スキャンダルの火種を作り出すことも。  賞味期限――四捨五入すれば30になる年齢では、もう男を釣れないということなのか? 「あなたは私の予想を超えて、いい働きをしてくれました。貴方が相手をした人物も満足し、私も見返りを得た。しかしですね残念ですが、想像以上に「大水 蒼」という男は魅力的すぎた。もはや蒼は、有名人なのです」 「有名人?」 「貴方を密かに探し回る人間の数を知ったら驚きますよ?できることならもう一度、そう願う可哀想な男達が大勢いるわけです。 このまま続けていたら、貴方の身の安全を確保することすら難しくなる。そう判断しました」  通り過ぎて行った数多の男達。彼らが見たのは存在しない男でしかない。名前も見た目も作られた幻影だ。
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