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「もうカラコンもいりませんし、髪の色ももとに戻しましょう。銀髪・碧眼の「大水 蒼」から、「沢木 碧仁」にね」  人の記憶の曖昧さ。銀髪ではない、アッシュカラーに染めた髪だ。灰色がかった茶髪でしかない。碧眼も同様。本当に青い目の人に悪い。実際は青みがかったやや濃いめのヘーゼル色。 「あと少しビルドアップしますか」 「筋肉質にはなりませんよ?」 「いいのですよ、ムダな肉のない、しなやかな身体程度で。蒼は中性を重んじて、細すぎましたからね。 あなた本来の体格に戻っていただくだけです。そしてこの店の店主として過ごす」 「は?」 「働きによる収入はそれなりになったでしょうし、『sin』の権利金も継続します。ここの商売を軌道にのせれば、生活に困ることはない。概要は以上です、質問をどうぞ」 「『peur』から他のどこかに、払下げになるということですか?」  斉宮はイライラしたように灰皿に吸殻をこすりつけ、次の煙草に火をつけた。 「あなたほど、分をわきまえたスタッフをどこにやると? 私の名前が斉宮だと知っている、一握りの人間のあなたを他に? 話が突然すぎて戸惑うのもわかります。こういう言い方はしたくないですが、この5年に手に入れたデータに映っているのは蒼です。その生身を手放すはずがないと、少し考えればわかりますよね?」  切られていないカード。この先切られるであろう「ソレ」は、斉宮の元に保管されている。 ほぼすべてが、わたしが誰かと寝ている姿だ。佐藤の撮った調教ビデオなんて子供だましなくらいの破壊力を持ったデータ。  結局のところ足かせはずっと存在するということだ。
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