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 タンカレーNo.10のボトルに目が行き、眉間に皺がよったのが自分でもわかった。このボトルは最悪だった3日酔いとともに、佐藤の姿を思い出させる。この酒を普通に飲める日がくるだろうか。 【コトリ】  何も頼んでいないのにコースターにトールグラスのカクテルが置かれた。 「ジントニックです。仕事あがりの一杯をどうぞ」  わたしが何を見て眉間に皺を寄せたのか斉宮は承知のうえだろう。なにもジンベースのカクテルを選ばなくてもいいのに意地が悪い。斉宮は片方だけ口角をあげて言った。 「ベースはビフィータですから安心して飲んでください」 「なんであってもジンにかわりはありません」 「まあ、そうですが。好きな物を飲めばいいのです。大好物の銘柄と違ったとしても」  これ以上この会話を続ける気がないからポケットから渡されたメモを取り出しカウンターに置く。斉宮は片方の眉をあげて数字しか書かれていない紙に手を伸ばした。 「これは?」 「月を名乗る男から渡されました。この番号は3日生きているそうです。でももう日付が変わったから2日になってしまいましたね。入用のものができたそうです。そして急いでいると言っていました」 「ほお、やはりポストを見つけましたか。あの男は油断ならないですが実に面白い人間ですよ」 「わたしには関係ありません。配達したまでですから。一つ聞いてもいいですか?」 「どうぞ?」 「なにも面倒なルートを辿らなくても、直接ここに来て楽しく飲みながら入用の物を直接貴方に言えばいいだけの事です。サイでもマルでもなく「斉宮」と呼ぶくらいの間柄なら」  斉宮は自分用のグラスに氷を入れると、ボトルの底に僅か残っていたビフィータを注いだ。
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