立ち読みの少女

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 今日も少女が立ち読みをしている。  着させられている感のする少し大きめの制服。近所の中学の制服だ。学校帰りなのだろう。いつも決まった時間にやってきて、十分ほど立ち読みをしてから出て行く。いつも読んでいるのは同じ本だ。平積みしてある文庫本。売上スリップが日増しに後ろへずれている。たぶん栞代わりに使っているんだろうな。  ある日、少女の読んでいた本が一冊売れた。無意識のうちに売上スリップを抜いてしまった。ひょっとして少女が読んでいた本そのものだったのかも。平積みしてある場所へ行き確認すると、売上スリップが後ろの方へ行っている本は一番上にあった。買った人は二番目か三番目の本を持って行ったのだろう。  その後も少女は立ち読みを続け、とうとう最後まで読み切ってしまった。読み終わった本の裏表紙を少女は暫くじっと眺めたあと、そっと元の場所へと返した。  次の日、少女はいつも立ち読みをしていた本を手に取り、そのままレジへと運んできた。お金は硬貨ばかりで丁度の金額を頂いた。少女はカバーを掛けた文庫本を胸にして、嬉しそうに店を出ていった。  しばらくしたある日、新刊が入荷したので本の陳列を換えることにした。少女が読んでいた本の紹介用のポップを外そうとして気がついた。ポップに覚えのないシールが貼られていたのだ。シールには「おもしろかったです」と丸っこい字でハートマークを添えて書いてあった。  今から作る新刊の紹介用のポップには、あらかじめシールを貼れる余地を残しておこう。今度はどんな感想が書かれるかな。  今日も少女が立ち読みをしている。
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