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私ははっきりと頷き、満足げに微笑まれた公は、再び契りの口づけを与えて下さった。
大蔵省を去り、下野したことで時間の出来た私は、こうして時折ご機嫌伺いをさせて頂ける身分になった。少しは認めてもらえていると自負しているが、公をご満足させるには、遥か遠い高みを目指さなければならない。いくつもの峰を抱えるその山は峻険で難渋だ。
「預からせて頂いております資金は、私が新たに設立いたします銀行の株に換えさせて頂きます」
平伏し申し上げると、穏やかな声が、契りを下さったあのお口から流れ出る。
「お前のおかげで、やりくりが楽になったと家のものが喜んでいる。これからも頼むぞ」
「お任せ下さいませ」
銀行のみならず、製紙・紡績・保険・運輸・鉄道、この国の基幹を成すものは全て私が創ってみせる。公が私を見て下さる限り、私は決して公を失望させることはないだろう。
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