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好ましいその唇を塞ぎ、括った藁の上に薄衣を敷いただけの粗末な夜具の上に横たえる。正絹の襦袢をはだければ、細い下弦の二日月に淡く照らされた白い肌が浮かび上がった。その下には薄いが力を漲らせた筋肉が張り巡らされ、その硬さが私にはビードロのように危うく感じられた。一生封じ込めたままでお暮しになることを選ばれた、その哀しみを全て吸い取りたくて、敢えて声を上げるほど責め立てる。
呻くお声も甘い吐息も、背中に滲む汗一つ、そのままにしておくには何もかもが勿体なく、私は与えられる全てを頂いた。
狂おしく乱れるお姿は美しく、あの時ばかりは、私だけの公であった。
始めてお目にかかってからわずか四年後、己自身がかつて願っていたはずの討幕が、まさかあのお方の手によって幕引きされるとは、何度思い返しても不思議な思いがする。
その報を聞いたのは、弟君の昭武(あきたけ)様のパリ留学に随行していた時で、幕府からの御用状よりも早く、フランスの新聞が報じた。
遥か遠い異国の地では出来ることなど何もなく、それまで落ち着かぬ心持ちで成り行きを見守っていた私は、あの日ほどお側に居られぬことを悔しく思ったことはない。そして己の気持ちが、君主を一心に慕う家臣のものではなく、あのお方そのものへのアムールであるのだと、自覚されられたのもこのときであった。
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