分身

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 蟄居なされた公を追いかけて静岡に辿り着き、私は商法会所の運営に関わった。財政難に苦しむ藩の一助になるべく奔走しながらも、徳川ご本家を始め、罪人のような視線を向けられていた公のお心を芯からお慰めするにはどうすればよいのか、夜な夜な己の不甲斐なさに涙していた。  人材難に苦しむ新政府は、優秀な旧幕臣を次々に召し上げた。私にも政府からの呼び出しがかかったが、もちろん断った。しかしながら拒み続けては静岡藩が余計な勘繰りを入れらかねないと説得され、ついに私も東京へ赴かねばならなくなってしまった。それでも大久保一翁にはお断り申し上げ、すぐに公のもとへ戻るとお伝えするつもりであった。  しかし、公は「私の代わりに新しき時代を思うがまま行け」とおっしゃって下さった。「お前の才覚を手元で無駄に浪費させるのは忍びない」と。 「それでもおそばに居たいのです」  と願えば、 「静岡藩の碌を当てにせねば立ち行かぬ連中ならばいざ知らず、お前は――」  そこで一旦お言葉を区切り、珍しく熱を持って私の眼を見つめ、 「お前のこれからの生き様を、私は楽しみにしているのだ。あたかももう一人の私であるように。どれほど賛辞されようと、私は己の立つ場所を選べなかった。もちろん与えられた役で、全ての人のために才を惜しまなかったつもりだ。しかし、それも終わった……私はもう一人の私の生き様が見たいのだ。野心と才能に恵まれたお前がどうするのかを、我にみせよ」 「公の御心にかなうならば」     
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