分身

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「私を超える働きをせよ。お前には私の六年よりはるかに長い年月が与えられるはずだ。ならば私をはるかに超える事績を成すは明らかである。私はお前が見たいのだ」  世の人々は、徳川幕府を滅せしめた大罪人と評するが、討幕を一度は志していた私からすれば、その偉業は並々ならぬものだと知っている。ご本家の手前、そのようなことを口に上らせるのは藩内でさえ憚れ、世間の評判も海舟の功績ばかりに目が向いてしまっていた。  公の御前に幾度か伺う機会を得るうちに、その口惜しさが言葉の端々からにじみ出てしまっていたのかもしれない。もしかしたら、それが公のお考えに近く、それゆえにこのようなお言葉を賜れているのかもしれなかった。 「畏れながら、そのようなこと」 「出来ぬとはいわせぬ。私が薩長と睨み合う中、お前をフランスへ行かせたのは……平岡のように死なれては困るからだ。事実、お前たちが旅立った年に原はやられてしまった」 「原様はお覚悟の上で、平岡様の跡を引き継がれましたゆえ」  私は水戸出身の目の淀んだ男を思い出す。頭は切れるが、常に黒幕となって人を操るお人で、私は少し苦手だった。     
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