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ぼくが殺しました。
テレビの中の人は元気そうに朝の訪れを告げ、
カチカチと時計の秒針が時を刻み、空が白けてきた時間帯。
目の前では頸動脈を研ぎ澄まされた包丁で切られて、血を吹き出して倒れている男が居た。
それを僕はただ見下ろしていた。
この手にはこの男を刺した感触が残っている。
そう、ぼくがこの男を殺したのだ。
ただぼくは何故ここにいるのかが分からないでいた。
それだけではなく、ぼくの名前も顔も分からない。
何故ぼくはここに居て、この男を殺さなければならなかったのか。
それすらも分からない。
そう。ぼくは彼を殺したこと以外の記憶全部を失っていた。
ぼくはとりあえず男が死んでいる部屋から出てみる。
キッチンに心理学や経済学の教材が置いてあるところを見ると、どうやらこの男は大学生らしい。
コンビニのおにぎりの包装ビニールが散らばるテーブルの上にはミネラルウォーターと、所謂精神安定剤の類の錠剤が入った袋が置いてあった。
薬の袋には“松永 アキト様”と書かれている。
恐らく、あの男の名前だろう。
記憶が無いぼくは松永 アキトという人物を知る訳が無い。松永 アキトとはどういう人物で、ぼくとどんな関わりがあったのだろうか。
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