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普通を脅かす存在を古井新だと思っていた彼は、一度、自分を見逃した。
だが、その存在が自分だと分かれば、彼は躊躇なく自分を殺そうとするだろう。
普久原通。
誰よりも普通である事に拘る男。だが、彼は矛盾を抱えている。
普通を望んでいる彼自身が、文字化けの能力を使えるということ。
それを証明するように、彼は一冊の文庫本を持ち出して、本の中から文字だけを宙に浮きあがらせる。
「この能力……文字化けって言うらしいな。つまり、俺らは環境依存文字ってことだ。この世界の、この環境には合ってない人間なのか? 社会不適合者? なんでお前だけじゃなくて、俺までそのレッテルを張られてる?」
そんな事は自分が知るわけがない。
以前であれば、救おうとしたのかもしれないが、今はそんな気持ちにはなれなかった。救われたいのは自分の方なのだから。
普久原は、空中を漂う文字で、一本の刀の形を作り出す。
自らの日常を壊そうとするモノは、それがたとえヒトであっても、殺すことを厭わないのだろう。
自分もこれ以上、世界を壊したくはないので、黙って殺されるわけにはいかない。
いや、逆に自分が死ねば、世界は救われるのか?
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