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「俺、こう見えても国語と同じくらいに数学ができるんだよ。それをおじさんが知らないだけでね」
「そ、そうだったのか……」
倉崎は一緒に住んでいる甥の事も知らない自分を情けなく思ったのか、何も言い返せず、そっと机の上に置いていたボールペンを右手に取った。
少し酷い事を言ってしまったと真は思う。
「なら、理系で書いていいんだな?」
「うん」
しっかりと頷いてみせる甥の姿を見ながら、ボールペンをノックして、プリントに印刷された理系の文字に丸をつける。そして、自らの氏名を書き始めるのだった。
物事が起こる時には必ず、“前兆”というものが存在する。
「――――ッ!?」
真は自分の目に映ったものに目を大きく見開いた。
目に映ったもの。それは――ボールペンでプリントに描かれた黒い文字が空中へと浮かび上がり、蠢く姿だった。その『倉崎博則』と言う文字羅列は水中を泳ぐ魚のようにただ、空中を漂う。
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