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“前兆”は時として、人に襲い掛かったり、何もせずにただ空中を大人しく漂っていたりする。
今回の“それ”は後者であった。
だが、彼が驚いていたのは、自らの目に映る“異様なモノ”が原因ではなかった。
(なんで……おじさんが……?)
問題は伯父の倉崎がその“前兆”を引き起こしている事にあった。
未だに目の前の光景が信じられない為に、目を擦る。すると、伯父の横に漂っていたはずの“異様なモノ”は綺麗さっぱりなくなっていた。
(見間違いだったのか……? 疲れてるから……?)
そう思い込むことによって彼は、勝手にほっとする。
「おじさん。あんまり、無理はしないようにね」
「……? 急に何言い出すんだ?」
訝しげな表情で「熱でもあるんじゃないか?」と自分の額に右手を当てて馬鹿にする伯父を見て、いらない心配を全て消し去った。
「じゃあ、俺宿題しないといけないから」
「頑張れよ」
倉崎に言葉を投げかけられながら、椅子を立ち上がって、右側にある自分の部屋へのドアを開。中へ入る前に後ろを振り返って伯父の様子をもう一度確認した。
変わったところがない姿を見て、部屋の中に入り、ゆっくりとそのドアを閉めた。
◇
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