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「ようこそ、いらっしゃいませ」
少女が次に目を開いた時、かけられたのはそんな言葉だった。
黒いエプロンをつけた青年が微笑んでいる。ひょろりと長い背に、黒髪眼鏡。本は似合いそうだ。
「えっと……」
状況が飲み込めずに戸惑う少女に、
「ここは名もない秘密の本屋。君は望んでここに来たんでしょう?」
青年が答える。
薄暗い部屋だが、辺りを見るとたくさんの本棚があった。
「え、じゃあ、本屋には売っていない本があるっていう……」
なんとなく恥ずかしくて、願いを叶えてくれる本の話はできなかった。
しかし、青年はそんな思いも見透かしたかのような、すべてを受け入れるような笑みを浮かべる。
「この本屋にあるのは、一般流通していない本ばかり。まあ、所謂同人誌ってやつだね」
「同人誌……? それってアニメとかの?」
怪訝そうな顔を少女はする。
「二次創作はおいてないよ。ここにあるのは一次創作、オリジナルだけだ。近年、同人誌というと二次創作のイメージがあるかもしれないが、国語の時間にやらなかったかい? 昔の文豪達が自分たちで集まって同人誌を作ってたこと」
「やったような、やらなかったような……」
曖昧な少女の答えに、しかし青年はバカにするような素振りは見せなかった。
「じゃあここにあるのは、プロの作家が好きに作った本ってことですか?」
「まあ、商業デビューしている人のもあるけど、大半はそうじゎないね」
「素人ってことですか?」
つい口調が強くなる。なんでアマチュアのものをお金を出して買わなければいけないのか。
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