オータムからの通知

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オータムからの通知

音楽スタジオ・パンダに着いた頃は大量の汗を掻いていた。 『わりぃ、遅くなった』 俺はドロップと言うバンドでボーカルをしている。 同い年のギター担当、弓削田慧。ベースの下野洋介。ドラムの幅田和樹。三人が演奏を止め不気味な笑みで俺を見つめる。 『な、なんだよ』 困惑する俺に不敵な笑みのまま、封筒を差し出す弓削田。 『ん? 何これ?』 『全員揃って空けようと思って』 弓削田は不敵な笑みのまま。ピンと来てない俺を見て弓削田が続ける。 『覚えてないのか? 前にデモテープを事務所に送ったじゃんか!』 興奮する弓削田を見て少しずつ俺は思い出してきた。 『あーー! 思い出した! 大手事務所のオータム! どうだった? どうだった?』 俺も弓削田以上に興奮してきた。 『いや、だから大地が来て全員揃ったら開けようと思って』呆れた後、恐る恐る開封する弓削田。 『よ、読むぞ』 固唾を呑むメンバーに弓削田が音読する。 『この度はデモテープの送付ありがとうございます。厳正な審査の結果……』 『なんだよ。弓削田。続きを読めよ!』 高揚する幅田。結果を待ちきれない俺は弓削田の震えている手から通知書を取る。 『審査の結果……』 俺は言葉に詰まった。硬直する俺から下野が通知書をとる。 『……』黙読する下野。 『洋介ちゃんよーー』見兼ねた幅田が通知書を読み上げる。 『なになに。結果、弊社事務所と契約を結んで頂きたいことをお願い申し上げます……』 四人共目を合わせ、一瞬時が静止する。 『えええーー!! まじか! あの大手芸能事務所オータムとの契約!』 幅田も興奮を抑えきれない。俺達の興奮は頂点に達した。思い切りハイタッチし、渾身の力を込めガッツポーズした。そして歓喜の雄叫びをあげた。 『よっしゃーー! フォーーーー!』 四人で肩を組み、『オータム。オータム。オータム』連呼しながら交互に飛び跳ねた。
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