本屋さんと尺八

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本屋さんと尺八

 ある日、読子は幼馴染みの勧めで尺八を習うことにした。  彼女が言うにその講師は読子好みの美形だという。  誘われるままに呼び出した講師の顔を見て、読子はすぐにその意味を知る。 「ヒカルちゃんってば、意地悪なんだから」  講師の名は雲井火男と言うらしい。  雲井の顔は憧れだったお兄さんの学生時代に雰囲気が似ており、美形と言うのはその事だろう。  ただ読子としてはその男性は「幼馴染みへの叶わぬ恋を引きずっている憂いを帯びている」からこそ好きなので、顔が似ているだけだとむしろ嫌いなタイプだった。  それでも友人の勧めを無碍には出来ないと、読子は雲井との挨拶を軽く済ませて彼を座敷に上げた。 「それでは本屋さん、これを」 「どうも」  授業を始める前の準備として雲井は手製の尺八を読子に手渡す。  握った瞬間に妙な生温かさを感じたが、読子はまだ雲井の手の熱が残っていただけだろうと流す。 「では初歩から始めましょうか。歯はくっつけずに、唇を軽く開いて、こんな風に」 「こうですか? ふ、ふぅ~」  ずぶの素人である読子は上手く音を出せない。  ふうふうと息を吹き付けるだけになってしまう。 「焦らないで、上手ですよ」 「ほうれふか?」     
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