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「目的地、周辺に到着しました。音声案内を終了いたします」
そう言われてから約十分。大通りから一本奥へ入った通りにある、小さな店舗のがらがらの駐車場に車をとめて、僕はようやく大きく息を吐く。残り五百メートルでここまで迷うとは。教習所の頃はパズルみたいだと面白がっていたのに、こんなところで一方通行の不便さを実感する。思えば、日々の移動を電車ですませていたために、車を運転するのも久々だった。通ってきた祖父の訃報を受けて、数年ぶりに戻った故郷の街並みはよくよく見れば面影を残してはいるものの、ところどころ見覚えのない建物や道路があり、その馴染めなさが道のりをいっそう長く感じさせていたようだった。
ペットボトルのお茶を一口飲んでから、後部座席に置いていたダンボールの一方を抱え、慎重に引き戸をあけて店の入り口をくぐる。涼しい店内だが、図書館や古本屋特有の古い本の匂いがした。入り口から正面の壁には覧故考新と堂々とした文字が額に飾られている。
「いらっしゃいませ」
カウンター内の椅子に腰掛けていた女性が抑揚の薄い声でそう言う。アルバイトだろうか、黄色いカチューシャで前髪を押し上げた身なりはこの店の古めかしさとは不似合いに見える。
「本を売りに来たんです」
僕がそういってカウンターにダンボールを下ろすと女性はそれをのぞき込んだ。
「これで全てでしょうか?」
「あ、いえ、もう一箱あるので持ってきます」
どうして他もあると思ったのか、そんなことはないのに騙そうとしたのを見透かされたような心持ちがする。あわててもう一箱を車から出してカウンターへ運ぶ。一通り冊数の確認をすると女性背後にあった引き出しから壱とかかれた木の札を出して僕へ渡す。
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