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グループ分けのくじと同じ番号の天体望遠鏡の前にはもう彼女がいた。
僕は隣に腰を下ろした。
望遠鏡を覗いていた彼女はこちらを向き、笑った。
「久瀬くんも覗いてみなよ、きれいだよ」
その笑顔と名前を知られていた喜びで途端に頭が真っ白になった。
鼓動が早まり、体温がどんどん上がっているのを感じた。手は震え、周りの喧騒が耳から遠のいていった。
次の瞬間には、口から言葉がこぼれていた。
「好きです。ずっと前から好きでした」
時が止まったかのように彼女はまばたき一つしないままこちらを向いて固まっていた。
いつの間にか戻ってきた喧騒が、僕を我に返らせた。
現実を認識した途端、恥ずかしくなり顔を伏せた。
こんなはずじゃなかった。もっとちゃんと告白するつもりだった。
しばらくしてから布と地面が擦れる音がした。
「久瀬くんと星には縁があるね」
「え?」
少し震えた彼女の声がしたので顔をあげると、彼女は望遠鏡を覗きこんでいた。
「中学生のころ、星のイヤリング見つけてくれたでしょ」
「あ、うん。たまたま…」
「うそ。久瀬くんの家、私とは逆方向でしょ」
望遠鏡を覗いたまま彼女は続けた。雲が月を隠し、辺りが少し暗くなった。
「私あの時すごく嬉しかった。わざわざ雨の中探しに来てくれて。本気で探してくれたのは久瀬くんだけだった」
こちらを向いた彼女の表情には影がかかっていてよく見えなかった。
「久瀬くんってとても優しい人なんだなって思った。あの時から気付いたら目で追ってた。授業中も、体育祭も、学園祭もいつでも気付いたら探してた」
僕も同じだ。一目ぼれした一年生のころから気付けば彼女を目で追っていた。
彼女と話したい、彼女に触れたい。気付けばそう思っていた。
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