母の嘘

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 最後に、蛇足かも知れないが、嘘の話とは違う話を。  先日、本当に久しぶりに母から突然電話がかかってきた。母は開口一番、「父が亡くなったら遺産をいくらか分けて欲しい」と僕に言った。  父は重体なわけではまったくないし、そんな話を母にしたわけでもない。ただなんの脈絡もなく唐突に、「父がもし死んだら」という話をするために僕に電話をかけてきたのだった。母が嘘つきな人間であるという自分の推論にそれまで多少なりとも後ろめたさを感じていた僕だったが、その電話で、どうやら僕の母は本当に「ちょっと普通ではない人間」らしいなと確信した。  それから僕は「母が嘘つきな人間である」ということを喋ることもこうして記すことも後ろめたさを感じることはなくなり、また、積極的に自分から母に連絡をとることもやめて、今に至っている。
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