母の嘘

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 目の不調を訴えているときの母と会ったことはあり、母は外を歩く際、僕の肩に掴まるなどしていた。これに関しては、僕は疑っていない。母の様子や歩き方、自分の視界に関して説明していた話などから考えて、本当に視力が衰えていたんだと思える。  それからしばらくして、母と会うことがなくなって久しくたったある日、母は片目の視神経を手術で切ることになり失明したと僕に電話で話した。眼球も普通に動き、見た目的には判別できないが失明しているとのことだった。それを聞かされて僕は、何も言葉が出ず、ただ「そっか」とか「大丈夫?」とか、そういう類のことを返した(父の暴力が原因でそうなったと聞かされていたのもあって、言葉がうまく出なかった)。  片目を失明した母に会うことのないまま時はたち、一昨年の正月のことだ。  父方の実家に帰省した僕は、この連休を利用して十年弱ぶりに母に会いに行こうと思い立ち、母に連絡をした。しかし母は、「見た目がみっともなくなったから会えない」と繰り返した。そんなこと気にしないと僕は言ったが、母は頑なに会うことを拒み、結果、僕は母と会うことは叶わなかった。  それから一年ほどして、さんざん述べたように母が嘘つきな人間らしいということに気付いたのだが、そこで僕が思ったのは、 「母の片目は、果たして本当に失明しているのだろうか」  ということだ。     
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