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母の片目の話は、初恋の相手が亡くなった話や、空き缶や空き瓶を探し回って過ごした貧しい幼少期の話と、どこか同じ匂いを感じないだろうか? だとしたら、母が僕に会うのを拒んだ本当の理由は、嘘がバレるのを避けるためなのではないか? いや、母がバレるのを恐れている嘘はもしかしたら、失明のこととは限らないかも知れない。メッセージアプリで以前話してくれた、愛犬が亡くなったということが嘘だったのかも知れないし、もしかしたら祖母が亡くなったというのが……。もちろん僕だってそんな風に考えたくはない。
考えたくはないが、ただ、母が語ったことが真実であるかどうか、僕にはわからないのだ。
「母が嘘つきな人間である」ということがわかってしまった以上、生まれてから今まで僕に母が語ってきたことのどこからどこまでが真実でどこからどこまでが嘘なのか、僕にはもうわからない。すべてを信じたい気持ちはもちろんあるけれど、すべてが嘘なのかも知れないとも思う。
ちなみに、母の口癖は「お母さん、可哀想やろ?」だ。
母は僕に、自分を可哀想だと思って欲しがる節が昔からある。
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