魔法使いの書店員

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 今日も則秀は何の案も思い浮かばないまま、目的地である文栄堂の前までやって来てしまった。文栄堂はすでに営業時間を過ぎ、入口にはシャッターが下りている。  一つ溜め息をついて、則秀はさっと辺りを見回した。裏通りで街灯の少ないこの暗がりの道を、則秀のほかに歩いている人はいない。そのことを確認すると、則秀は顔をあげて、文栄堂の二階に視線を合わせた。四方が壁に覆われて、窓もないそこは、文栄堂の物置スペースということになっている。  もちろんそれは嘘ではない。だいたい二階の半分の面積は物置として使われている。  けれど壁で仕切られたもう半分は、違う用途で使われていた。則秀以外の店員はそのことを知らないどころか、物置が一階に比べて狭いということを意識することすらないけれど。  則秀は物置ではない方の壁に向かって、地面を蹴る。それは蹴るというよりも、背伸びでもするような動作に近いかもしれない、そのくらい力の入っていない軽い動作だ。けれどそれだけで、則秀の爪先は地面を離れ、宙へと浮く。そして二階の高さまで上がった則秀の前では、いつの間にか壁がドアに変わっていた。そのドアを引いて、則秀は店内へと入る。  そこは魔法書店「麻文庫」。  魔法使いたちが書いた魔法書を預かり、他の魔法使いへと渡していく、魔法使いのための書店。     
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