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こめかみに智久さんの口唇が触れる。
「は…あ、すげー感動」
ん? 何が?
「朝、ドタバタしながら二人で出勤したのも感動したけど」
寝坊したので確かにドタバタした。
辛うじて簡単な朝食は用意できたけど、私の髪が……終わっていた。
何年ぶりだろう?
髪を一つに纏めて会社で過ごしたのって。
で、あれのどこに感動ポイントが?
「帰ったら、いるって……。
月子がここにこうしているのが感動」
私たちの交際期間は2年だけど、智久さんは実家暮らし、私は会社の女子寮に住んでたので(由美と後輩の望ちゃんは女子寮仲間だった)、
どちらかの家にお泊まりということができなかった。
デートのあと、お互い帰りたくない気持ちになっても、
人目につかないところでそっとキスだけして、女子寮まで送ってもらう。
ふた月に一度くらい、週末、一泊二日で近郊の温泉や観光地に出掛けたので経験はある、けれど……、
おそらくその回数は、
世の同世代カップル
(智久さんは33歳に、
私は30歳の大台に入った)
の足元にも及ばないはずだ。
だから、私たちにとっての結婚は、二人が二人だけで過ごすための甘い誓約だった。
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