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安心しきった俺は次の日に父親に相談して船に乗った。
初めての船の上は揺れが激しかったが、イルカの上よりは楽だ。
「中々揺れに動じないじゃないか。」
漁業の人に言われる。
「こんな揺れぐらいなんともないですよ。」
「頼もしいねぇ!」
海の怖さは完全になくなっていた。
その時だった。
「おい、イルカの群れだぞ!」
父親が大きな声で言った。皆で網を引き揚げた。イルカの混獲を防ぐためにやらなければいけないことだ。
俺は確かにヒレに傷のあるイルカを見かけた気がした。
信じたくなかった。
まだいるという可能性に賭けたかった。
「元気でかわいいなぁ!」
皆はそんなことを言うが、僕は気が気でなかった、早く帰りたかった。
今日は綺麗な満月だった。
初めての漁業が終わったのは夜の九時、その月に照らされて俺は急いであの白く輝く砂浜に向かった。
「・・・・イルカ?」
俺の問いかけは、その日、初めて、返ってこなかった。
一つ、白い砂浜に泣き声が響いた。
その泣き声に反応して、海で大きく跳ねる影があった。
月明りに照らされて輝くそれはまるで海の上の月の様だった。
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