第一話

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「あぁ、おった。ちょっといいかの」  俺が自分の部屋で本を読んでいると、祖父が大事な話があると言って呼びに来た。 「なんだよ」 「ちょっと、話したいことがあっての」  改まって話したいことがある、なんて言われたのは初めてだった。  まさか内容があんなことだとは思わなかったけど。  俺の正面に座った祖父がいったこと、それは、 「わしがもし、全く別の世界から来た人間なんだと言ったらお前さんはどう思う」 「はい?」  突然このじい様は何を言っているのだろうか。 「つまり何、じじぃは本当は異世界からこっちに来たってことなのかよ」 「なんじゃ、信じるのか?」  意外そうな顔をして聞いてくる。 「いや、どっちなんだよ」  いきなり人の部屋に訪ねてきたかと思ったら何が言いたいのか。 「わしが異世界人だというのは、本当じゃ」 「……」  どうやら、本当らしい。  信じたわけではない、だけど、本当のことを言っている。  十六年間、二人で暮らしてきたのだ。それくらいはどうしたって分かる。 「何でそんなこと急に打ち明けたんだよ」  現実感の欠片もない告白に困惑しているがそこは聞かねばなるまい。 「……十年くらいになるか、お前さんに稽古をつけるのは」 「そうだけど、それがどうしたんだよ?」 「うむ、稽古を受けてる中で不思議に思うことがあったんじゃないか」 「不思議なこと?……言われてみれば、剣術とか格闘術とも違う変なあれのことだろ?」 「そうじゃ、あの変なやつ。あれ本当のこと言うとな、「魔術」っつーもんなんじゃよ」  うん、よく分からん。  このじいさんは一体何をさせたいんだろう?  一人で困惑していると、何か吹っ切ったような顔をしたじいさんが口を開いた。 「…………わしはな、帰りたいんじゃよ。元の世界にな」 「そっか……」 「あぁ」  なんて声をかければいいのか分からない。  今までため込んでいたことを開放して満足したような祖父。  まだ、「実は、隠し子がいるんじゃよ」とか言われたほうが受け入れるのは簡単だったと思う。
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