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背中がムズムズするような、あまり心地のいいとは言えない沈黙が訪れた。
お互いになんとなく目を合わせないでいる中で、ふと、疑問に思うことがあった。
「そういえばさ、どうして俺にそれを教えてたんだよ」
「どうして、か。そうじゃな、人の記憶など曖昧で脆いからの、たまには外に出してやらないと腐っちまうんじゃ」
「ようするに、自分の知っていることを誰かに教えたほうがより理解できる、みたいな?」
「そんなところじゃな」
「で、どうすりゃじじぃは元の世界に帰れるんだ?」
俺はそれを聞いたことをひどく後悔した。
それを聞いた時の祖父の表情で全て察することが出来てしまったからだ。
つまり、
帰ることが出来ない、ということだ。
そのことが、分かってしまっているから、それでもすべて忘れてしまうこともしたくない、そういう諦めのような表情をしていたから。
「ご、ごめん……」
「何故、謝るんじゃ」
俺がそう言うと困ったような笑みを浮かべ言った、もしかしたら過去にも同じようなやり取りでもあったのだろうか、そんな、懐かしむような雰囲気が短い言葉の中にあったように思う。
そのまま、よっこいせ、と重い沈黙を振り払うように立ち上がると、邪魔したの、と言って部屋から出ていった。
あれから何日かは正直一緒にいるのが辛かった。
祖父が自分のことを話すことなど今までなかったから正直、受け止めきれていなかったからだろう。
そんな俺を見かねてなのか、たまにはどこか遊びに行ってはどうかと言われた。
日頃から祖父に鍛えられていたおかげで体力なんかには自信がある、それでも俺という人間は日の光が苦手だ。
それよりも、祖父と息苦しいまま顔を合わせるよりはと、出かけることにした。
出かけた、と言っても目的地にたどり着くことはなかったのだが。
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