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「これからやっていけばいいさ」
その言葉に、彼の方を向くと、孝明さんは少しだけ首を傾げて、柔らかく微笑んでいた。
彼は私の手を握って、言葉を続けた。
「今までできなかったことは、これからやっていけばいい。まずはお茶を飲もうか。君はアイスティーのストレートかな。次はクレープを買おう。その後は展示を見て回ろう。フォークダンスは見られるかわからないけど、もし見られなかったら他にやり残したことをやろう。文化祭だけじゃなくて、これからゆっくり時間をかけて、一緒にやりたいことを全部やっていこう」
彼は握った手を優しく撫でながら、そう言った。
少しかさかさとした、温かな手が、私たちが今一緒にいることを私に伝えてくれていた。
「そうね」
私はその手に自らの手を重ね、ほんの少し目を細めた。じんわりと涙があふれてくるのを感じた。
「行こうか」
「ええ」
私たちはそう言って、手を放した。けれど、彼の温もりは、私の手にしっかりと残っていた。
車を降りると、初秋のまだ少し熱く感じる風が、私の髪をなびかせた。
「あ、お父さーん! お母さーん! こっちこっち!」
天の川のようなアーチの下で、私たちの娘――星奈が伸び伸びと元気よく、こちらに手を振ってくれていた。
私は差し出された彼の手をとって、星奈の方へと一歩踏み出した。
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