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私がテントだと思っていたものは屋台だったらしい。手作りの看板がテントの屋根や柱に貼られ、人々は目的のものを求めてそれらを視線でなぞるようにして見ていた。
「もう秋とはいえ、今日はちょっと暑いな。のど乾いただろ。飲み物買ってきてやるから、ちょっとここで待っててくれ」
孝明さんはそう言って私の手を放し、人ごみの中に消えてしまった。
彼の熱がなくなった手に、先ほどまでは熱く感じた初秋の風がどこか冷たく感じて、私は彼の行った方に手を伸ばした。
「あれ? 有希子じゃん」
背後から私を呼ぶ声がして、私は伸ばした手を思わず胸元に引き寄せて、呼ばれた方を振り返った。
「何してんの? 1人?」
白いテントの中から、彼女は私に手を振っていた。「3-1」という白く丸い字が左胸のあたりに小さくプリントされた赤いTシャツを彼女は着ていた。
「ううん、孝明さんと……」
私がそう答えると、彼女はあいたー、と言いながら後ろに大きくのけぞった。
「噂の彼氏さんかー。文化祭デートとは見せつけてくれるねー」
「そんなんじゃ……」
なんとなく気恥ずかしくなって、私は頬をほんのりと赤く染めて、胸元で小さく手を横に振った。彼女にはそのしぐさがいじらしく見えたらしく、うっはー、と言って顔を両手で隠しながらまた後ろにのけぞった。
「そんなお熱いお2人さんには特別大サービス。クレープ半額にしてあげるよー!」
彼女は威勢よくそう言って、竹トンボのようなものを持ってずずいっと手を前に突き出した。彼女のそばには丸い鉄板があり、その下には「クレープ1個400円」と書かれたカラフルなポスターが風で飛ばないようにセロハンテープで止められていた。
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