これからの思い出

6/9
前へ
/9ページ
次へ
曲が終わると同時にまた同じ曲が流れ始め、先に踊っていた人たちとこれから踊る人たちが、リズムに合わせて入れ替わった。 まだ親しくなって日が浅いのだろうか、お互い恥ずかしそうにはにかみながら、夕日に頬を染めて踊る男女がいた。 私たちは何も言葉を交わさなかった。触れ合う体温だけが、私たちが一緒にいることを証明していた。 曲が進むにつれて、ぎこちなかった先ほどの男女も、楽しそうに笑いながら、少しふざけたりもしながら、他のカップルとともにグラウンドを踊り歩いていた。 ふいに、彼が私に向かって手を伸ばした。私は何も言わずに彼の手を取った。 私たちがともに過ごしている証明が、また一つ増えた。 クラリネットだろうか、柔らかく、少し低い笛の音が、オクラホマミキサーの旋律を奏で始めた。 ああ、と私は思った。 すぐにバイオリンの音色に切り替わり、耳に馴染んだメロディーを軽快に奏でていく。 終わってしまう。 私は握っている手に少しだけ力を込めた。 それに応えるように、彼も指先にほんの少しだけ力を入れたのを感じた。 少しとぼけたような音が流れた。 まだ終わらないで。 全ての楽器が同じ音を奏で、そして、静寂が訪れた。 ああ。 終わってしまった。 そう思うと同時に、私は瞼が閉じられていくのを感じた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加