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「有希子」
私はその呼びかけに、はっとして目を開けた。
頬に1粒の涙が流れているのを感じた。
「有希子、着いたぞ」
横を見ると、先ほど見ていた彼より白髪やしわが目立つようになってはいるが、変わらず愛しく思っている人が、私に呼びかけていた。
私は車のシートに身をあずけ、眠ってしまっていたようだった。服を確認すると、先ほどまで着ていたベージュ色の制服ではなく、ジーンズと薄いグレーのシャツが、私の身体を包んでいた。
「どうかしたのか?」
孝明さんが心配そうに、私の顔を覗き込んだ。私はふるふると首を振って、こぼれていた涙をそっと指で拭った。
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