4人が本棚に入れています
本棚に追加
「夢を、見ていたの」
私は彼に向かって微笑みながら、そう答えた。
「私たち同じ高校に通っていて、そこの文化祭を一緒に回っていたわ。おかしいわね、私たちは別々の学校だったし、そもそも4歳年が離れているから、一緒に通えるはずないのにね」
私は吐き出すように溜め息をついて、夢の話を続けた。
「お茶を飲んだり、クレープを買ったり、展示を見たり、後夜祭のフォークダンスを眺めたりしていたわ。展示にはね、私が妊娠した時、病院で描いた絵があったのよ。あの子の名前に込めた願いを描いた絵。覚えてる?」
「もちろん」
彼はそう言って頷いてくれた。私はなんだか嬉しくて、ほんの少し口元を綻ばせた。
「2人でそれを見ていたわ。なんでかしらね。これからあの子の文化祭に行くからかしら」
私は彼がいる方とは反対の窓から外を見た。今いる駐車場より少し遠くに校門と、それを飾るように取り付けられた、たくさんの星のオーナメントが輝いているアーチが見えた。
「私ね、フォークダンスの音楽を聞きながら思ったの。終わらないでって。終わってほしくなかった。ちょっと寂しくなっちゃったのね。私たち、出会うのが遅くなっちゃって、2人で文化祭を回るなんてこと、できなかったから」
そのアーチから視線を外し、私は目を伏せるようにして俯いた。
触れ合っていたはずの肩や手には、あの温もりは残っていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!