これからの思い出

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これからの思い出

「有希子」 指先に触れた何かが冷たい。これは鉄だろうか。その周りはざらざらとした何か。きっと木だ。それもまたひんやりとして心地よい。 反対に、風が運んでくる空気は熱を含んでいて、私は額にうっすらと汗をかいていた。 「有希子」 二度名前を呼ばれて、私はやっと意識がはっきりしてきた。まだ重い瞼をゆっくりと開くと、柔らかく微笑んでいる愛しい人が私を見ていた。 「やっと起きたか」 彼は苦笑しながら、軽くかがんでいた身体を起こした。どうやら私は木陰のベンチで居眠りをしてしまっていたらしい。 「孝明さん、ここは……?」 私は眠い目をこすりながら彼に尋ねた。すると、彼は不思議そうな顔をして私を見た。 「まだ寝ぼけてるのか? 自分の高校だろうに」 「高校?」 目をこすっていた手をおろすと、制服の袖が見えた。自分の服装を見てみると、茶色に近いベージュをしたスカートとジャケットが、風にひらひらと揺れていた。 目の前の彼も、同じ色のジャケットと紺色のズボンを履いていて、私たちの胸元には金色の校章が木漏れ日に反射して輝いていた。 なんだか向こうががやがやと騒がしい。顔を上げて音のする方に視線を向けると、体育祭の時に設置するような白い屋根の即席テントがいくつもずらりと並び、そこに人だかりができていた。 「さ、俺たちも行こう」 彼の声に視線を戻すと、彼が微笑みながら私に手を差し出していた。 「行くって?」 私はその手を取りながら、彼に尋ねた。彼はやっぱり苦笑して、私の手を引っ張った。 「本当に寝ぼけてるな。決まってるだろ?」 そう言った彼の手に導かれるまま、私はぼんやりとした頭で先ほど見ていた方向へと歩いて行った。
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