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「石野沢高校、横山裕子」
プールサイドの端に等間隔で置かれたスタート台。その中のひとつ「4番」と書かれたスタート台に向かっていく。
歩くごとに焼けつくような地面の熱が足の裏を刺した。
スタート台の上にあがるまではどんなに緊張していても、乗ってしまったら嘘のように雑念が消えるから不思議だ。
私はその現象をテレビでとある女優が言っていたインタビューから「緊張しやすいタイプなんですけど、舞台に上がると不思議と落ち着くんです現象」と呼んでいる。
今回も例に漏れず、雑念は消えていた。
スタート台の上で深く息を吐き、ゆっくりと息を吸う。いつもの動作だ。
周りの声が少しずつ遠くなる。肌に感じるジリジリとした日差しは、水面に反射してきらきらと光っていた。
スタート台の先端に足の指をかけ、腕を前につく。
スタートの合図で思いっきり台を蹴り、身体は一瞬だけ宙を舞った。
着水までの刹那、このまま飛んでいけたなら気持ちいいだろうなとも思うが、重力はそれを許してはくれない。
肩に風を感じながら、すでに頭と身体は迫り来る水面に立ち向かう準備をしていた。
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