2. 盗む

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 閉館後の図書館は冷たい静けさが漂っていた。  暗闇に包まれた館内を小さなライトの明かりだけを頼りにゆっくりと進んでいく。  頭の中で館内図を広げながら非常階段で地下へと降り、壁伝いに進むと書庫の前へとたどり着いた。  ドアの前には「1」から「9」までの番号が並べられ、入室しようとする者には4桁の番号を入力せよと強いてくる。  暗証番号キーは強行突破が不可能なうえ管理者がいつでも番号を変更できるため、いちいち鍵を取り換える必要もなく便利だが、入室しようとするたびに番号を入力しなければならないのは利用するスタッフにしてみれば余計な手間が増えているようにも思えた。  果たしてそれは便利なのか不便なのかと頭の中で思考を巡らせながら事前に手に入れていた暗証番号を入力すると、電子音とともに書庫の扉が開いた。  内側にも暗証番号キーがある。ドアを閉めればオートロックがかかる仕組みだ。  幼い頃から欲しいものは盗めと教わってきた。  この国の義務教育とはだいぶかけ離れた英才教育を施され、酒が飲める歳には立派な泥棒になっていた。先祖代々続く由緒ある泥棒の家系だ。  若い頃から泥棒の才覚を発揮し、我が家系始まって以来の天才と呼ばれるまではよかったのだが、困ったことに自分には物欲というものがハダカデバネズミの毛ほども無かった。  欲しいものは盗めと教わったものの、欲しいものがなくては盗むこともできない。  さすがに物欲まで他人から盗むことはできないため、仕事として泥棒をやっていくことに決めた。  書庫の奥、いかにも古めかしい本が並ぶ棚の中に、その本を見つけた。  表紙はかすれて読めなくなっているが、間違いなく目的の本だった。  長居は無用とドアの方へ向かうと、外から電子音が聞こえた。  出会い頭だった。ドアの向こうに誰かがいる、と気がついたときにはドアが開く音が聞こえ、懐中電灯の鋭い光がこちらへ向けられていた。
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