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通夜には弔問客が次々に訪れ、対応に追われながら親父はこんなに慕われていたのかと驚きもした。皆、義理とは思えない悲しみ様なのだ。親父と同年配の人間ばかりではなく、小さな子供連れの若い母親まで目を赤くしてやって来る。俺は不思議でならなかった。 「塾で遅くなってしまって」 夜の10時も過ぎた頃やってきたのは高校生の少年だった。 少年はぎこちなく線香を立てて手を合わせたかと思うと、突然ワッと泣き伏した。 「この子の話、聞いてやんな」 面食らっていると佐藤さんが言い残して席を外し、俺は少年と二人きりにされてしまった。 とりあえずタオルを差し出すと、少年は小声ですいませんと謝って身を起こした。 「おじさんに恩返し出来なかったと思うと悔しくて」 「恩返し……?」 「俺、中学ん時ここで万引きしたんです」 俺は黙って耳を傾けることにした。 彼は友人達と遊びで万引きを覚えた。ショッピングモールの書店で捕まり、この店からも盗んだと白状した。親と一緒に謝罪に来たが、親父は「本好きでなければ盗らないだろうし、本屋にとって本好きな子供は宝物のような存在」と許したのだという。 「読んだら感想聞かせてねって本を貸してくれました」 少年は肩を震わせる。 「本当は本なんかクソつまんねって……でもおじさんに借りた本、すごく面白かったんです」 恐る恐る訪ねると親父は喜び、帰りには別の本を渡され、それが続くうちに悪友と疎遠になり受験にも合格できたそうだ。 「全部おじさんのおかげなんです」
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