ぼくとおじさんとぼうけん

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しばらくけんとくんの小さな背中を眺めていたおじさんは、むくっと立ち上がりました。 「よし、海を探しにいこう」 「え?」 「ぼうしを取って来い。ほら、早く」 急にキビキビと動き始めたおじさんに急かされ、けんとくんはおじいちゃんに買ってもらった大きな麦わらぼうしをかぶりました。おばあちゃんが冷たい麦茶を入れてくれていた水筒を肩にさげ、スニーカーをはいたら出発です。 「早く早く」 おじさんに手を引かれ、けんとくんはお家を出ました。家の前は、畑になっています。 朝、おじいちゃんと一緒にけんとくんは畑でトマトとキュウリを収穫しました。キュウリは、見たこともないほど長くて太く、お化けきゅうりだとおじいちゃんが言いました。夏は野菜の生長が早く、毎日収穫しないと、途端にお化けみたいに大きくなってしまうのだそうです。 「海は、どこにあると思う?」 「水があるところ!」 「けんと、これだ!」 おじさんが、地面を指さしました。 「これは違うよ、水たまりだよ」 「うーん、そうか」 昨日の夕立の落とし物でしょう。この暑さでもう干からびかけています。 「おじさん、海はもっと深いんだよ」 海は、けんとくんの背よりも深いのです。だから、泳げないといけません。それに、魚もたくさん泳いでいます。 「けんと、これだ!」 道路の端にしゃがみ込んだおじさんが、また声を上げます。 「これは違うよ、用水路だよ」 田んぼの脇をちょろちょろ流れる人工の水路です。小さな魚が泳いでいますが、おじさんだったら一足で飛び越えられるほどの幅です。 「おじさん、海はもっと広いんだよ」 「うーん、そうか」 おじさんは、立ち上がってうーんと伸びをしました。そして、またのそのそと歩いていきます。
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