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ときおり聞こえる車のエンジン音がBGMだった。静かな昼下がりである。店内には騒ぐ客どころから客すらいない。
ラビット古書店にはエアコンがなかった。ゆえに、冬は寒く、夏は暑い。そして、今は夏。照りつける強い日差しがドアのない出入口を熱していた。
「あっつー」
ひたいに浮かぶ汗を拭い、一人の少年が小型の扇風機に向かってつぶやく。返事をする者はなく、声だけがただ虚しく駆ける。ちらと壁時計に目をやると、午後二時三十分を指そうとしていた。
この真夏日の中、わざわざ古本を買いにくるヤツなんていないよなー。少年は今さらながらこのバイトを選んだことを後悔しはじめていた。暇が彼を襲う。まるで自分だけときの流れから弾かれたような感覚だ。
レジカウンターでぼんやり座っているのにも疲れ、はたきを持って本棚のほうへ移動する。日焼けした背表紙、表紙カバーのない文庫本、黄ばんだ雑誌などで埋め尽くされている。それらにはたきを振っていると、ふと少年の手がとまった。
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