第1章

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 だとしたら、よかったのだろうか。  よかった……俺が不安だったものが、解消した。  でも、まだ心にもやもやが残る。 「なぁ、文学についてもうちょい聞かせて」 「……今日のきみは勉強熱心だね」内心、本の世界に没入したいのか。やや不満げな様子だった。しかし、どうしても心のもやもやは消えない。「文学についてって、どういうこと?」 「だから、その。共感について、何かいいかけただろ。それについて」 「……んぅ、ちょっと分かりにくいかもしれないけど。例えば、今あたしは正直買ったばかりのこの本を読了したい」 「うんうん」 「だけど、きみはそれよりも、話してくれという」 「うんうん」 「反応がそれだけってのが、きみらしいというか。きみの良いとこかもしれないけど。......これが、エンタメだったら、きみが悪者で、あたしは一発顔面を殴れば話は終わりだよね」 「なるほど」 「あ、いや。今の冗談だから……今の、多少のツッコミが入ると思ったんだけどな。いや、いいや。で、これが文学だったらどうなるか。もしかしたら、ここできみに文学について語ることが将来的に役立つことかもしれない。いや、それ以外にもきみにとっては他人はどうでもよくても、きみにとっては重大な理由があるかもしれない。そう考えると、あたしは買ったばかりの本を読みたいって理由だけで断っていいものだろうか、ということになる」 「……ん、んぅ」 「よく分からなかったんだね。うん、きみは分かりやすくておもしろいね。えーとね。……言葉って、その内包してる意味だけとは限らないじゃない。状況や、言った人の違いで、言葉の意味が変わってくる。例えば、愛してるって言葉」 「あ、愛……」 「これには反応するんだね。――ともかく、愛してるって言葉。これが、愛って意味だけじゃなく、もしかしたら、嫌いという意味も含んだ場合もあるかもしれない」 「モーニング娘みたいだな」 「きみ、ほんとに中学生? いや、あたしもそれ知ってるけど……ともかくね。言葉って脆弱なんだよ。絵や音楽のように分かりやすいものじゃない。情報量が足りない。それでも、さっき言った複雑なもの、言葉で表せられないようなことを、あえて言葉で表現する。それが、文学だと思う」 「……ぁ」  何か、納得がいった。
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