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「そんな大変なものだから、文学って中々受け入れられないんだと思う。でもね、自分にぴったりの物語があると、何よりも離れがたくなるのが文学だよ。自分しか知り得ないような悩み、苦しみが、誰かの物語として昇華されている。それがエンタメ以上の解放感を与える」
「……あぁ、もしかして、出口書店って」
「鋭いね。そう、うちの店の由来もそういう意味合いらしいよ。出口書店。誰かの感情の出口になれば、ってことらしいよ」
006
ある日。
彼女は俺以外にも、本を紹介してくれと言われれば、あっさり承諾するのだが。
断るときもあった。
「ちょ、何でだよ」
「ごめんなさい。あなたのは分からなくて」
「なんだよ。使えねーな」
と、失礼なことをいう生徒がいた。
いや、俺も紹介してくれたときはうれしかったので、断られたら、ショックでひどいことを言ったかもしれないが。
「……ごめんなさい。でも、あなたには言っちゃいけない気がしたの」
その人物が離れたあと、彼女は誰にも聞こえないように小声でつぶやいた。
たまたま、俺はそれを聞いてしまっていた。
007
友人とケンカした。
何がきっかけでこうなったのか......あー、いや、忘れたふりはやめよう。
本屋だ。
彼女と仲いいなお前、と言われて、からかってきたので、怒ったのだ。
……むしゃくしゃする。
図書室の受付の仕事で、久々に本屋からおすすめの小説を聞くと。
「ごめんなさい」
と、言われた。
「教えられないの」
「……は?」
意味が分からなかった。
今まで、たくさん紹介してくれたじゃないか。それを何故、今になって。そんな、そんなこと言うんだよ。
まさか、俺があのとき、断られた奴の立場になるとは思わず、余計にショックだった。
「――くそっ、一体なんなんだよ」
俺は仕事が終わり、帰り道になってもむしゃくしゃが治まらなかった。
「……んぅ」
出口書店とは違うが、帰り道の途中に本屋があった。
チェーン店の一つで、カフェの真似事もする本屋だ。中に入ると、すぐ目につくところに売れ筋の本が並び、俺は思わず、面白そうなエンタメ小説を買ってみる。
内容は、いじめられていた少年がいじめっ子に復讐する話。
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