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「小説は言葉しかないからこそ、自分の頭で想像するしかない。漫画や映画とは違い、他人にゆだねることしかできない脆弱なメディア媒体。だけどね、だからこそできることもある。頭の中で勝手に描かれるからこそ、ある意味ではどの媒体よりも、遠い世界に行ける――VRマシンのように。だと、あたしは思うんだ」
「……何か、難しいな」
中学生というの関係なしに難しく感じた。
いや、話してる相手も中学生なんだけど。やっぱり、本を読んでる奴って頭がいいのかな。言い回しというか、何というか。遠い人のように感じた。
「………」
――すごい、遠い人のように感じた。
「じゃあさ、いや話変わるけど。お、俺にも読める小説ってあるかな?」
「ん?」
「いや、その。俺あまり本読まないから」
「……え、じゃあ何で図書委員に?」
「帰宅部だから目つけられただけ」
「そうなんだ」
出口書店。お客が内心探し求めてる本を、どういう方法か知らないが探り当てて紹介する本屋。
いや、不躾だったかな。いくらその奇跡のような本屋の娘とはいえ、それを学校でやってくれと言うのは。
「ごめん、そんなこと言われても困るよな。その」
「知ってるよ」
だが、彼女は俺の何気なく放った問いにあっさりと答えた。
まるで、豪速球で投げたはずのボールが軽々と受け止められるように。
本屋はてくてくと受付から離れて、本棚から一冊の本を取りだし、こちらにもどってくる。
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