第1章

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「小説は言葉しかないからこそ、自分の頭で想像するしかない。漫画や映画とは違い、他人にゆだねることしかできない脆弱なメディア媒体。だけどね、だからこそできることもある。頭の中で勝手に描かれるからこそ、ある意味ではどの媒体よりも、遠い世界に行ける――VRマシンのように。だと、あたしは思うんだ」 「……何か、難しいな」  中学生というの関係なしに難しく感じた。  いや、話してる相手も中学生なんだけど。やっぱり、本を読んでる奴って頭がいいのかな。言い回しというか、何というか。遠い人のように感じた。 「………」  ――すごい、遠い人のように感じた。 「じゃあさ、いや話変わるけど。お、俺にも読める小説ってあるかな?」 「ん?」 「いや、その。俺あまり本読まないから」 「……え、じゃあ何で図書委員に?」 「帰宅部だから目つけられただけ」 「そうなんだ」  出口書店。お客が内心探し求めてる本を、どういう方法か知らないが探り当てて紹介する本屋。  いや、不躾だったかな。いくらその奇跡のような本屋の娘とはいえ、それを学校でやってくれと言うのは。 「ごめん、そんなこと言われても困るよな。その」 「知ってるよ」  だが、彼女は俺の何気なく放った問いにあっさりと答えた。  まるで、豪速球で投げたはずのボールが軽々と受け止められるように。  本屋はてくてくと受付から離れて、本棚から一冊の本を取りだし、こちらにもどってくる。
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