第1章

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「はい」  彼女が渡した本は、まあ当然だが俺の知らない本だった。  やたらと長々しいタイトルで、表紙は簡素なイラストが描かれてるだけ。芸術性があるのか、子供でも描けるようなぐちゃぐちゃした線が描かれている。えらい評論家だったら偉そうなこと言えるのかもしれないが、俺にはよく分からないと表紙だけで判断しそうな本だった。 「これ、え、これが? え、何」 「だから、きみがおもしろいと思う本」  多分、合ってると思うよ。 「あとで借りるといいよ。大丈夫、ページ数も少ないし、読むのに苦労する文体でもないから」 「でも俺――」 「きみの場合はすごい単純なことだと思うよ」  本屋は、俺の瞳を見つめて言った。 「きみは、まだ知らないだけだよ。知ることが、体感するかのような物語を読むことが、なんなのか」  にこっ、と笑う彼女。  そのあとに借りたいという生徒が来たので、俺たちは受付の仕事にもどった。  で、仕事が終わったあと、俺は試しにこの本を借りることにした。題名は『何かを知ることによって』だった。  003  家に帰宅。母が作った夕ごはんを食べて、風呂に入り、自室のベッドに寝転がると、床にほうった鞄から、図書室で借りた本を手に取る。  本屋が紹介した本だ。 「……んぅ」  大丈夫かな。  彼女、普段から本を読みまくるから、本を読まない人の気持ちが分からないんじゃないか。題名というか、表紙からして取っつきにくいイメージだし、大丈夫かな、こういうのって意外と重要なんじゃないの。  と、あーだこーだ言い訳しつつ、スマホが気になりながらも、本のページをめくってみる。少しでもつまらなかったら。スマホに意識がいって、ゲームでもやりだしただろう。だが、本は俺を離さなかった。
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