第1章

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 ここに書かれている文章は難しい語彙や、言い回しは一切なく、読書初心者の俺にすら、スラスラと読める本だった。ジェットコースターのように、読者を離さないという表現があるが、あれとは微妙に違う。まるで、ボートに乗って川に流されるかのように、自然な流れなのだ。それでいて、川は人知の及ばぬような力が、それに匹敵するものがある気がした。  何かを知る喜び。  好奇心は何かを知ろうとする快感だが、この読後感はなんだ。知ったことで、まるで世界の景色が変わったような――実際はいつもと何も変わらない自室なはずなのに、一変したようだった。 「………」  一言でいえば、楽しかった。  俺としては読後したことよりも、その方が不思議だった。驚きだった。驚愕した。  俺が、まさか本を読んで楽しいと思えるなんて。  004  翌日、教室に着くやいなや、俺は本屋に話しかけた。 「あ、おはよー」 「すごかったぜ、あの本!」  突然の大声に、周りは唖然とする。  あ、と俺は赤面し、辺りを見回す。中にはひそひそと、よからぬことを妄想してそうな輩がおり、本屋を見ると、目が点になっていた。 「ご、ごめん。その」 「……あ、うん。いいよ。そう、気に入ってくれたならよかった」だが、本屋はすぐさまいつもの彼女にもどった。まるで聖母のように中学生とは思えない慈悲深さで許容してくれた。「やっぱり、きみは。何かを知りたかった。今いる場所から一歩、前に出て外に行きたかったんだね」  そう、あの本を要約すると、そうなるのか。
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