第1章

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 ……あぁ、こういうことか。  出口書店。何で、あの書店が噂になるほど評判なのか分かった。そうだ。俺でも分からなかった願い――が、本屋には見えていたのだ。  それ以降も、俺は彼女からおすすめの小説を紹介してもらう。 「それにしても、よく俺が読みたい本が分かったよな」 「読みたいって、ようは欲望の指針だからね。きみは図書委員には目をつけられてなったって言ったけど、本に全く興味がないわけじゃなさそうだし、でなかったら、あたしに紹介してもらおうなんて考えないよね。だけど、あまり本を読まない。まだ、これまで体験したことのないものに挑戦しがたい――に感じたの」  だから、簡単だったよと。  以降、彼女が俺に紹介したのは、まるで階段を一歩一歩踏みしめるように、段階をふんでのものだった。少しずつ頁数も増えて、内容もさらに深まり、一ヶ月もすると俺の読む本は四百や五百ぐらいに変わり、唖然とする。これが一ヶ月の変化か。一ヶ月前はこの分厚さは、宇宙の果てのように感じたのに。  いや、本の分厚さは関係ないか。  本屋が紹介する以外にも俺ははまりだし、今じゃ自室の空に近かった本棚が充実してきた。  人を殺せるほどの分厚さになってもつまらないものはつまらないし、何十枚しかない短編でもすごいおもしろい小説は存在した。  大切なのはなんなのか。  同じインクの染みでしかないはずの小説が、どうしてこれまで違いが生まれるのか。  中には、馴染みにくい。多分俺の度量が低いだけで、ほんとはすごい傑作なんだろと思う小説もあった。この違いはなんだろ、小説を読むときの度量って……自分で言ったけどさ。なんなんだ。小説を読むときの度量って。  005 「そんなもの、あたしはないと思うな」  と、本屋に相談してみたら、あっさりと否定された。 「いや、でも。読むときに多少の教養というか。分からないってことない?」 「んぅ、多少はあると思うけど。でも、だからって完全に読みきれないってわけじゃないと思うな。小説って、ようするに共感するものなんだよ」 「きょ、共感?」 「共感。例えば、ここに成績優秀、スポーツ万能のAくんがいたとします」  唐突に、共感といわれ。俺は首をかしげるが。  しかし、そのAくんには即答できた。 「むかつくな」
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