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バス停をふたつ、乗り過ごした。
あの時は思い付きで。
今度は、意図的に。
***
「この話さ、展開が読めねえんだよ」
「ああ、それな。最近話題のヤツだろ」
「そう。ずーっと独白で話が続くシーンとか、心理描写に鳥肌立ったぜ」
ジュンの足が『Prose and Mind』(散文と心)と書かれた看板の下で止まる。
あの頃とほとんど変わらない。
今すぐにでも、あの人が本棚の向こうからひょこっと顔を出しそうだ。両腕にたくさんの本を抱えて。
このアメリカの小さな学生街にある書店Prose and Mind、通称Prose(プロウズ)には隣接してカフェがあり、そこではいつもカップを片手にいろいろなテーマで本好きの連中が談笑していた。
チェーンの書店ではない、アイルランド系のご主人が始めたこの本屋には彼やスタッフのこだわりで選び抜かれた本が置かれ、それとカフェのクッキーを目当てに常連さんたちが足繁く訪れている。
先ほどの男たちもそういった顔ぶれだが、ジュンには彼らが話題にしている本には見覚えがあった。
彼らの激論の合間に、そのうちの一人が手にした本の艶やかな表紙が夕陽を受けてキラリとこちらに光を反射した。
まるでその小さな光が自分に向けられたスポットライトでもあるかのように、ジュンは目を細めるのだった。
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