静かな人々

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=== ===== ======= (帰りたくない) バスの中から見る風景はいつもと同じなのに、何故か 「近寄るなよ」 と自分を拒絶しているように見えた。 鞄の中の封筒をくしゃ、と微かに力を込めて握る。 封筒には “7th Grade - Grade Report(中学1年生の通知表)” と大きく印字されている。 これを開けてみた時の母親の反応を先ほどから脳内で100回ほども映像化して、ジュンはうんざりしていた。 たいていのアジア系の母親がそうであるように、ジュンの母親も教育には情熱を傾けていた。 小さなころから読み聞かせをし、いい習い事があると聞けば遠くでもジュンを車の後部座席に乗せて通わせた。 通知表の備考には、「ジュンちゃんはよくばがんばる子です」 と誉め言葉も多いのに、母親が目を留めるのはいつも否定的な部分だ。 ― 授業での発言が少ない。 ― もっとクラスでの議論に参加してください。 ― 手を上げる回数が増えるとよいですね。 アメリカの学校では授業中に何回手を上げて先生の質問に答えたり発言したか、議論にどのくらい積極的に参加したか……そういう “参加の度合い” が重視され、上の学年になると成績にまで影響してくる。 積極的な発言は生徒の理解の度合いを測る手段としてだけでなく、授業の進行への“貢献度”としても見なされるのだ。
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