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1、外出
「こーんにーちわー!」
お昼ごはんを食べ終わってくつろいでいると、網戸を勢いよく開ける音に合わさってケンちゃんの大きな声が玄関の方から聞こえてきた。
これから食後のデザートに手を付けようという所だった僕は思わずしかめっ面になる。
「”一時”って約束だったのに、まだ十二時半過ぎたばっかじゃんか」
「まあまあ。きっと待ち切れなかったのよ」
かき氷機の蓋を開けて氷を追加していた母さんがクスクス笑う。
一番乗りで作ってもらった目の前のかき氷は、上からたっぷりかけたメロンシロップが表面の氷をじりじりと溶かし始めていて、今がちょうど食べ頃なのにと訴えてきているように見える。
「あらあら健太くん。こんにちは」
「こんちわー! ユウキ君いますか?」
「はいはい、中にいますよ。呼んでくるからちょっと待っててねえ」
外に置いた植木を見に行っていた婆ちゃんがケンちゃんを見つけたらしい。
呼びになんか来ないで十分くらいそこでお話していてくれれば、その間にかき氷が食べられたのに。気が利かないなあ。
「ユウちゃん。健太君が遊びに来たよぅ」
「分かってるよ、今支度してから!」
約束の時間より三十分も早く来たタイミングの悪いケンちゃんへのイライラを、婆ちゃんの呼びかけへの返事に混ぜてぶつけてから、僕はかき氷の前からしぶしぶ離れた。
玄関で待っているケンちゃんは半袖に短パンという組み合わせだったけど、手の甲で額の汗を拭き取るその顔はちょっと歪んでて暑そうに見えた。
「ポーチ取ってくるから待ってて」
「おう」
ケンちゃんの後ろに見えるコンクリートの地面は、日がじりじりと当たって石の破片がきらきらと輝いている。
外に出てみなくても『今日はものすごく暑いんだ』って一目で分かるレベルで天気が良すぎて、ちょっぴりやる気を削がれた気がした。
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