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蓋を開くと白い冷気の中から整列したお茶のペットボトルが姿を現した。炎天下のせいで茶色い液体が黄金色に輝いて見える。腕を突っ込むと、詰め込まれた氷が半分ほど溶けて底に溜まっていた。うん、ちょうど良い。
「はい、濡らしてきたよ」
「いま手が離せません」
「あ、そうだよね。ゴメンゴメン。ここに置いておくね」
「いえ…… あの、部長。そうではなくて」
神崎さんは前屈みの姿勢でうなぎに鉄串を刺し通しながら、こちらにチラチラと視線を向けてくる。あぁ、そういうことか。
冷水したたるハイテクバンダナをうなじに近付けると、ヒョコヒョコと頭部を縦に動かして同意を示す。
そのコミカルな仕草に加えて、黒いTシャツと白い首とのコントラストからちっちゃなペンギンを連想したが、これは内緒にしておいた方が良いだろう。
「ひぃあっ!」
冷水を含んだバンダナがペタリと首筋に触れた瞬間、普段は財務アンドロイドと揶揄されるくらいクールな神崎さんが奇声を上げた。どうやら冷た過ぎたらしい。それが可笑しくて、つい吹き出してしまう。
こちらの様子に気付いた周囲の財務部社員からも、笑い声が上がった。「財務部」という堅い響きの部署に不似合いな陽気な雰囲気は、普段の業務中と同じ。
優秀な部下に囲まれながら、我が財務部の「国産天然うな丼屋台」は文化祭の屋台売り上げ記録を大幅更新していくのだった。
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