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4. 袈裟丸邸
視界一面に涼しく揺れる竹林。
眼前の眺めを裏付ける様に、カーナビの画面も一面が緑一色に塗られている。その中を抜ける石畳の細道を、ゆるゆると辿るオレのハッチバックセダン。
「あの、神崎さん、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「部長は私の上司です。部下に質問するのに、いちいち断る必要はないと思います」
「えっと、この先にあるんだよね、袈裟丸(けさまる)会長のお宅」
「はい、その通りです」
「君は、この道に随分と慣れている印象を受けるんだけど……?」
「……あぁ、そういうことですか。いえ、違います。私と袈裟丸会長の関係は、部長がいま想像されている様なものではありません」
「いや、別に他言する気はないし、そういうのは個人の自由だから。いいんだけど」
「いえ、誤解されると困ります。私が」
「えっと、困るってどうして」
「部長、いままで黙っていましたが、そろそろお話しても良い時期なのかなと」
「え、なにその前置き。凄くドキドキするんだけど。ひょっとしてオレ、いまから袈裟丸会長から直々に退職勧告されるとか? なんだろう、今日までそれなりに真面目に働いてきたつもりなんだけど……」
「いえ、それはまったくの考え違いです」
「あ、この前の出張の時に一人なのにツインベッドの部屋を予約して、夜中に携帯のアラームをセットしておいて一晩で二つのベッドをハシゴしながら寝てみたのがバレたのかな? それとも、ア○クルのカタログ眺めてたら前から気になってた文房具が載ってて、それを財務部の経費でこっそり買ってしまったこととか。アレ、みんなの前では使いにくくて、いまでもデスクの中にしまってあるんだよね。やっぱりマズかったかなぁ……」
「その程度のことでしたら、私が既に把握しています」
「わ、君、知ってて黙ってたの? なにかオレにすっごい意地悪しようと企んでない?」
オレが助手席に視線を向けると同時に、神崎さんの口角がクッと上がった。なんだろう。普段のキツい印象のメガネをしていないせいか、今日はとても……
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