遠き山に日は落ちて

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 下校時刻を報せる〈遠き山に日は落ちて〉の旋律にのって、おなじみのフラットでロボティックなアナウンスが聞こえてくる。 『当校はまもなくシールド外となります。校内に残っている生徒は、速やかに防護スーツに着替え、下校しましょう。繰り返します。当校はまもなくシールド外となります――』 「うわっ、やっべ! おい拓真、早くしろよ!」 「え、あ、うん……ちょっと待って、あれ? あれ? おかしいな、ファスナーが上がらない、噛んじゃった、どうしよう麻未(あさみ)ちゃん、ねぇ……待ってよ、待ってたら、麻未ちゃぁん!」 拓真は防護服の前身頃の噛んでしまったファスナーと格闘しながら、必死に麻未の後を追う。 防護スーツが日用品(・・・)となって久しい。 だが、日常生活に合わせ、だいぶ改良が加えられたとはいえ動きやすいようにはできていない。 子ども用のスーツは大人用に比べると構造が単純化されているが、それでも、過ぎしいにしえ時の体操服などとは違い、着脱には手間と時間がかかる。
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